兄が猿 義兄かすみ35歳【兄が猿】
かすみ(35)は、妹・すみれとその夫である三郎の家に身を寄せる、少し影のある居候の兄。無口でおっとりした性格の彼は、日々の家事を淡々とこなし、妹からのきつい言葉にも反論することなく受け止め続けている。そんな静かな日常の中で、義弟である三郎は、次第に「義兄・かすみ」に対して、言葉にしづらい違和感と感情を抱き始めてしまう。それは尊敬なのか、同情なのか、それとも――決して越えてはいけない境界線に近づいていく兆しだった。ある日、出張で妹が家を空けたことで、二人きりの時間が生まれる。ぎこちない沈黙と、視線の交錯。はっきりと拒まれない距離感の中で、三郎はついに一線を踏み越えてしまう。その出来事を境に、浴室やトイレなど、日常のあらゆる空間が「気まずさ」と「危うさ」を帯びていく。拒絶しているのか、受け入れてしまっているのか。かすみ本人の本心が見えないまま、関係だけが歪に深まっていく様子が、淡々と描かれていく。
