八百万★社中 近くのお弁当屋さんにパート出た母(42)が・・・最近何か様子が変なんです。【八百万★社中】
タイトルからして日常の延長に潜む違和感を強く意識させる本作は、「母の変化」を息子の視点ではなく、読者自身の不安として静かに刷り込んでくる作品です。舞台はごく普通の地方の町。評判の良い弁当屋、明るく働くパート主婦、そして昔から彼女を知る店主――一見すると穏やかな人間関係のはずが、少しずつ歪んでいく過程が丁寧に描かれています。高原裕子という人物像は、単なる“美人な人妻”として消費される存在ではなく、母であり、町の一員であり、過去と現在を背負った女性として立体的に描写されています。その彼女に向けられる視線や思惑が、善意と悪意の境界線を曖昧にし、読者に不穏な緊張感を与え続けます。特に印象的なのは、露骨な描写に頼らず、「罠」「様子が変」という言葉と演出だけで状況の危うさを伝えてくる点。日常がゆっくり侵食されていく感覚がリアルで、ページ数以上の重さを感じさせます。フルカラーで描かれるからこそ、明るさと不穏さのコントラストが際立ち、読後には言いようのない後味が残ります。刺激だけを求める作品ではなく、日常の裏に潜む欲望や支配の構図を描いた心理寄りの一作。短編ながら、じわじわ来るタイプの作品が好きな人には強く印象に残る内容です。
